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【小説】『ハローハロー』(九津十八)~最低で最高のラストシーン~

多様性を尊重する時代。

誰もが自分と他者との違いを受け入れて、助け合うことができる社会。

みんなちがって、みんないい。

 

そんな理想が声高に叫ばれているけれど、現実はそんなにうまくはいかない。

今回は、生き辛さを抱えながら生活している、二人の中学生が主人公のお話を紹介します。

こんな人におすすめ
  • 生き辛さを感じている方
  • 障がいを持つ人が身近にいる方
  • いじめを目の当たりにしている方

あらすじ

認知症の加瀬真中(かせ まなか)は中学三年生。

一年生の時にいじめにあって以来、学校に行けない日々が続いていた。

ある日、家までプリントを持ってきてくれたのは、車いすに乗った明石京子。

二人は、「障がいを持つ者同士、お互いに見下し合いながら、学校に行く」という協定を結ぶ。

おすすめポイント

「お互いを見下し合って生きていく」という衝撃の協定

吃音でうまく話せない真中と、車いすで生活する明石さん。

二人は中学校でいじめにあっている。

持ち物が捨てられるのは日常茶飯事。

最悪なことに、生徒指導担当の教師からも理不尽な嫌がらせを受ける始末。

そんな学校生活を生き抜くために、明石さんはこんな協定を真中に提案する。

「君が私のこと見下して良い代わりに、私にも君を見下させて。そうして互いが互いを自分より下の人間だって思いこんで、心穏やかな学校生活を送らない?そういう関係でいようよ」

九津十八 『ハローハロー』 opsol book, 2025, 44ページ

クラスメートや先生は見て見ぬふり。助けてくれる味方もほとんどいない。

そんな厳しすぎる環境を生き抜く術を、「助け合おう」ではなく、

「自分よりかわいそうな人を見て、やり過ごそう」という

一見、消極的な提案。

でも、これが真中の心を癒してくれるのです。

その理由は…?

ぜひ本書を読んで、確かめてみてください。

次第に変わっていく二人の関係性

最初こそ「互いを見下し合っている関係」から始まった二人ですが、

次第にその関係性が変わっていきます。

仲が深まったり、かと思えば明石さんのご機嫌を損ねて遠ざかったり…

二人の関係はどうなっていくの??と先が気になる展開。

何しろ、理解が深まったなぁと思ったシーンの次のページでは、

なぜか明石さんが激おこになっていたりするのです。

 

知らない間に他人の地雷を踏んでしまう経験は、思い当たる人も多いのではないでしょうか。

そんなときに、どうやって関係を修復するのか。

真中は明石さんの怒りを収めることができるのか。

ハラハラしながら一気読みしてしまいます。

謝られたら、絶対に許さないといけないの?

真中のいじめの発端となった加害者・岡本という子が、

真中に謝りに来るシーンがあります。

ここのシーンは必見!

明石さんの毒舌啖呵がうなります。

いじめの被害者は、加害者に謝られたら、絶対に許さないといけないのか?

そんな理不尽なもやもやを、明石さんの言葉が晴らしてくれます。

その後の真中と岡本の反応も、とても良い!

最低で最高のラストシーン

この本の一番の見どころは、なんといってもラストシーン!

卒業式での二人の振舞いが、最低で最高なんです!!

正直、ここにたどり着くまで、気持ちが沈んでしまうシーンの方が多い。

いじめや嫌がらせの描写や、うまくできない自分にイライラする主人公たち。

共感すればするほど、読者もずーんとなってしまう…。

けれど、ここまで降り積もってきたフラストレーションが、

この卒業式の場面で一気に発散されます!!

正に「最低で最高のラストシーン」。

ネタバレになってしまうので、詳細は書きませんが、

ぜひ最後まで粘って読んでみてください。

絶対に後悔はしません!!

まとめ

作中で真中や明石さんが紡ぐ言葉は、諸刃の剣。

同じ立場の人の救いになることもあれば、

その人たちを積極的に支援せずに、遠巻きに見ている人にはグサッと刺さる。

実際、私自身もグサグサ刺されました…。

 

作中で二人を陰ながら助ける登場人物たちもいるのですが、

その応援する気持ちを素直に受け取ってもらえないジレンマも描かれます。

 

いじめの被害者、加害者、そしてそれを見ている人たちの関係を、

きれいごとで飾り立てず、とても鮮明に描いています。

だからこそ、読みながら胸を痛める人も多いと思うのですが、

ぜひ最後まで読み通してほしい。

苛烈な環境を生き抜いた二人の強い背中から教わるものが、きっとあるから。

こちらもおすすめ!

◆虹いろ図書館 司書のぼくと運命の一年(櫻井とりお)

『ハローハロー』では、いじめの被害者と加害者との関係の修復が

話の中で大きなテーマとなっています。

こちらの『虹いろ図書館』にも、

いじめを受けていた女の子と、いじめの主犯格の女の子が登場します。

興味深いのは、いじめの加害者側の気持ちを汲んだ描写があること。

『ハローハロー』とは少し違った視点で、いじめの顛末を描いている本作も、

ぜひ読んでいただきたいです。

 

◆夜明けのすべて(瀬尾まいこ

こちらの主人公は、生き辛さを抱えている会社員二人。

重度のPMS(月経前症候群)を持つ美紗と、パニック障害を持つ山添君。

『ハローハロー』よりも周りの人たちが温かく、

ひたすらに優しいお話なので、安心して読めます。

「自分の体質を変えることはできないけれど、人を助けることはできる」

それを心の支えにして生きる二人の物語です。