2019年に中国・武漢から始まった新型コロナウイルス感染症。
日本では2020年に緊急事態宣言が出され、
不要不急の外出自粛、学校は休校、行事も中止になりました。
当たり前にできていたことが、どんどんできなくなっていった時代。
その時に「青春時代」を過ごすはずだった人たちは、どう感じているのか。
当時を振り返るきっかけになった本をご紹介します。
- コロナ禍に青春を失ったと感じている方
- 親としてコロナ禍を過ごしていた方
- 子育てに失敗するのではと不安を感じる方
あらすじ
感染症であらゆる行動が制限されたあの数年間。
当時、小学三年生だった心晴(こはる)と冴(さえ)。
育った家庭環境も学校もまったく異なる彼女たち。
二人の物語が並行して語られる。
そして、就職活動中に出会った二人は、自分の人生を振り返り…。
おすすめポイント
失ったものと、得たもの
緊急事態宣言下、学校では分散登校が実施され、
クラスメートとのおしゃべりも許されませんでした。
外で遊ぶのが大好きな心晴にとっては、
顔も知らぬクラスメートとの手紙のやりとりが唯一の楽しみ。
分散登校が終わったら会おうという約束が希望でした。
けれど、通常登校ができるようになっても、
心晴の両親は感染症を怖れて、登校することを許してくれません。
それ以降、両親の許しが出た後も、心晴は登校できなくなってしまいます。
一方、冴は、休校期間中に
育児放棄されているクラスメート・蒼葉(あおば)に出会います。
彼は給食がなくなると食べるものがなくなってしまう状態でした。
彼の現状を見て、冴はこんな状態の子どもを放置しておくことはできない、
と小学校の先生になるという夢を見つけます。
二人とも、外出自粛によって失うものが多くあることを経験しました。
でも、大人になって当時のことを振り返ると、
あの時過ごしたあの時間があったからこそ、得たものもあると感じます。
以下は、心晴の言葉。
あの時間が私に与えたものは、ネットをうまく操ることくらいだと思っていた。
けれど、そうじゃない。
三十通以上やり取りした短い手紙。その子と会う約束を守れなかったことが、
私を何年も学校から遠ざけた。
だけど、感染症がなかったら、手紙自体存在しなかった。
たわいもない言葉が、こんなにも心を弾ませてくれることも、
心にずっと残ることも知らなかった。
これを読むと、確かにそうだった、と思えてきます。
あの自粛期間がなければ、人と顔を合わせて話せることがこんなに尊い時間だなんて
考えたこともなかった。
「当たり前の日常」が失われたからこそ、普段気づけない幸せに気づけた。
不幸なこともたくさんあったけれど、それでも今を生きている私たちには、
何かを残してくれた時間でもあった。
この文章を読んで、そう思うことができました。
「青春を過ごせなかった」世代??
感染症の拡大がちょうど学生時代にあたる二人。
いわゆる「青春時代」を過ごせなかった世代の子たちです。
けれど、大人になった二人は、当時のことをこう振り返ります。
「私はさ、感染症で青春が奪われた、やりたいことできなかったって怒ってる人がうらやましいよ」
「そう?どうして?」
(中略)
「そんなふうに言える子ども時代を送りたかったなって。
ネットで受験までできてよかった、感染症ってありがたいと思ってたくらいだから…。
感染症で行事がなくなることに怒りを覚えて、部活動や友達との付き合いが制限されることに憤って。抑制されながらも、そんなきらきらした十代を送りたかった」
著者はここで、「青春を過ごせなかった世代」とひとくくりにすることに
疑問を投げかけているように思います。
確かに学校の行事や友人との交流を阻まれて、憤った人たちもいた。
だけどその抑制に救われた人たちもいた。
その事実を肯定してくれる著者の優しさを感じました。
子育てへの不安と向きあう勇気
コロナ禍は、子どもだけでなく、大人もイレギュラーな選択を迫られ、
疲弊した期間でした。
この物語には、二人の母親が登場します。
心晴の母親と、冴の母親です。
心晴の母は、自粛期間でも心晴の学びになるようにと、
英会話や体操のオンライン教室に入会します。
また、通常登校に戻っても、感染するリスクを考えて心晴を休ませるという選択をします。
しかし、どれも心晴が納得できる選択ではなく、結局心晴は不登校になってしまいます。
冴の母は、シングルマザーです。
夜に飲食店の仕事に従事しており、冴が寂しさを感じないようにと
積極的に地域の人の手伝いをしたり、PTAに参加したりと
親以外のつながりを冴に残そうとがんばります。
また、育児放棄されている蒼葉のために、三日おきに食事を持って行ったり
おしゃべりをしたりと、猪突猛進な行動に出ます。
これも、困っている目の前の子どもを助けたいという一心からです。
二人の母の共通点は、子どものためになることを考えて、行動していること。
その結果、心晴と冴がどんな大人になったのか。
ぜひ本書を読んでほしいのですが、私は思わず涙してしまいました。
「親の心 子知らず」とは言いますが、それでもいつか伝わる時が来る。
その時はうまく伝わらなくても、良かれと思った行動が実らなくても、きっと。
そんな救いの物語だと感じました。
まとめ
子どもも大人も大変だったあの時期。
今でも思い出すのが辛い人もいるかもしれません。
でも、あの時のことを振り返りたい、
これから先のことを考えたいと思っている方には、ぜひ読んでほしい一冊です。
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◆この夏の星を見る(辻村深月)
こちらはコロナ禍真っ最中のお話。
緊急事態宣言下で部活動の恒例行事ができなくなってしまった
中学生・高校生たちが主人公。
「きらきらした十代」側の子たちを描いているので、
『私たちの世代は』と一緒に読むと、
当時の十代の世代の子たちの解像度が上がると思います。
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