住人たちが分担制で食事を作ったり、共有スペースの掃除をしたり、
協働しながら暮らしているコミュニティ型マンション。
これを聞いて、「楽しそう!」と思いますか?
それとも「めんどくさそう…」と感じますか?
シェアハウスとも違う、一風変わったコミュニティ型マンション。
そこには、単なる「お隣さん」ではない関係がありました。
- 感動したい方
- 子育て中の方
- やさしい気持ちになりたい方
あらすじ
ココ・アパートメント。住人たちが家事を分担し、互いに助け合いながら生活するコミュニティ型マンション。
そこで暮らす住人たちの人生を描く連作短編集。
おすすめポイント
全世代におすすめできる!
ココ・アパートメントに集うのは、老若男女、多世代にわたる人たち。
親と離れて暮らすことになった男子高校生、
彼とシェアルームをすることになったおばあさん、
大家のおじいさん、
結婚に踏み切れない30代のカップル、
3人の子どもを育てる40代の夫婦などなど。
彼らの過ごしてきた人生が、1章ごとに描かれていきます。
読者は、登場人物の誰かに自分を重ねながら、あるいは伴走しながら読めるはず。
幸せの瞬間を切り取る解像度の高さ
ここに集う人たちの中には、辛い過去を持つ人もいます。
夫からモラハラを受けてきて、娘と共に逃げて来た女性。
若くして妻を病で亡くし、息子と二人暮らしをしている男性。
あるいは、心に傷を負うほどのダメージはなくても、
普段の生活でうまくいかなくて落ち込むこともあります。
友人との諍いや慣れない生活でいっぱいいっぱいになっている高校生。
仕事が忙しくて、家族との時間がなかなか取れない会社員。
この本の中では、呼吸が浅くなってしまいそうな現実の中にも、
ほっと一息ついた瞬間、その幸せが、読者の心に沁みてくるような解像度で描かれます。
たとえば、私が好きなシーンはこちら。
モラハラ夫から、娘の花野(はなの)を連れて逃げ出し、新しいスタートを切った聡美。自分が司法書士資格試験に合格したお祝いに、花野と一緒に漫画図書館で一日中過ごす場面での一節です。
まどろみの間に、小さく口を開けて漫画に集中する花野の姿を見上げ、幸福というものを、ようやく思い出せた。
白尾悠 『隣人のうたはうるさくて、ときどきやさしい』 双葉社, 2024, 175ページ
緊張の糸が張りつめる日々を何とか乗り切って、ようやく掴んだ幸せの瞬間。
彼女の心中を想うと、じーんと胸に沁みました。
他にも色んな住人たちの幸せの瞬間が描かれています。
自分の日々の生活の中にも、同じような幸せがあるかもしれない。
読者自身の「幸せアンテナ」も高くなりそうな気がします。
どこまでもやさしい関係性
コンプレックスを抱えている人、ひとりでは解決できない問題を抱えている人。
いろんな人がいます。
ココ・アパートメントの隣人たちは、時にお節介を焼き、
時にそっと見守りながら、ホッと一息つける余地を互いに作っていきます。
近すぎず、遠すぎずの、この居心地の良い距離感って、どうやったら作れるんだろう。
そんな風に羨ましく感じながら読んでいました。
読み進めていくと、だんだんと、この関係性の源泉が分かってきます。
きっと読み終わったころには、自分の中にも、人にやさしくできる余地が作られているはず。
すべてがつながる瞬間!
エピローグまで読んだら、絶対にプロローグを読み返していただきたい!
正直、最初にプロローグを読んだときには、語り手が誰かも分からないし、
「はて??」という印象でした。
でも、すべての物語を読み終えた瞬間に、すべてが一気につながり、
胸に熱いものが込み上げてきました。
ピントが合わずにぼやけていた風景が、くっきりと美しい世界に変わる瞬間!
一言で言って、最高!!
まとめ
最後まで読んだ人は、本のタイトルに新しい感動を感じるはず。
何度でも楽しめる、そしてやさしい気持ちになれるお話です。
最高の読書体験を、ぜひ!
こちらもおすすめ!
◆カフネ(阿部暁子)
読み心地が、『隣人のうたはうるさくて、ときどきやさしい』と似た印象です。
『カフネ』の方が、主要人物たちがちょっと皮肉っぽいですが、
ホッとした気持ちになれるところは共通しているかも。