今回紹介するのは、2024年本屋大賞 第2位に輝いた、津村記久子さんの『水車小屋のネネ』。
その称号を裏切らず、読み終えた先にはじんわりと胸が温かくなる感動がありました。
実際に読んでみた私が、あらすじとおすすめポイントをご紹介します。
- 他人の人生を覗いてみたい方
- 自分の人生と向きあいたい方
- 分厚い本を、がっつりじっくり読みたい方
あらすじ
親元を離れて二人暮らしを始める18歳の理佐と8歳の律。
律に虐待めいたことをする母の恋人と、それを止めない母から離れるべく、
知らない土地で蕎麦屋のバイトを見つけて引っ越しを決意する理佐。
蕎麦屋の仕事の他に、水車小屋にいる鳥(ヨウム)の世話もすることに。
1981年、1991年、2001年、2011年、2021年の全5章から成る、姉妹二人の40年間を描く大長編。
おすすめポイント
家族以外の人々の優しさが胸に沁みる
親との縁を切って、二人だけで生活をする理佐と律。
けれど見知らぬ土地の人たちは、未成年の二人を放置していられません。
付かず離れず、二人を見守りサポートする町の人々(蕎麦屋の夫妻・浪子さんと守さん、律の小学校の担任・藤沢先生、近くに住む画家・杉子さんなど)。
「親ガチャ」という言葉がありますが、親がたとえ「ハズレ」でも、
周囲の人に恵まれて、それなりの幸せを感じながら生活していく二人の姿に励まされます。
ネネ(ヨウム)がかわいい
実は私は鳥が苦手です。目とか鱗みたいな足とか…
でも、この本に登場するネネは、かわいく思えてきます。
なぜって、このネネ、人間の3歳児並みの知能を持つ、歌が大好きで、声真似も上手な鳥なのです。
人間とのユーモラスなやりとりに、思わず微笑んでしまいます。
「人生の連鎖」の面白さを知る
40年間の大長編ともなると、少年少女は青年に、青年は中年に、中年は老人になっていきます。
「次の世代へバトンを渡す」と聞くと、まず思い浮かべるのは自身の子どもや親戚の若者だと思います。
けれど、血縁関係がなくても、自分の想いを受け継いでくれる人たちはいるし、
自分自身も他人の気持ちを受け取り、大事に抱えて生きることができる、ということに気付かされます。
その事実は、作中のこの言葉に表れています。
自分が元から持っているものはたぶん何もなくて、そうやって出会った人が分けてくれたいい部分で自分はたぶん生きてるって。
40年間という月日の中で、人間関係は深くなったり疎遠になったり、新しい出会いや別れがあったりします。
けれど、今はそばにいない人でも、かつて交わした言葉や行動を通して、残り続けていくモノや感情、思い出がある。
そしていつか自分がいなくなっても、自分と関わってきた人たちの中に残っていくものがきっとある。
そんな人生の連鎖の面白さが、この本に描かれています。
まとめ
この本の醍醐味は、理佐と律、二人の人生を覗きながら、
自分の人生も振り返ってみたくなるところだと思います。
400ページにわたる他人の人生を読み終えた時、「さて自分の場合はどうだろう」と考えずにはいられません。
日々の何気ない営みと、その中で生まれる人々の交流を丁寧に描いたお話。
この分厚さ、ちょっと手に取るのを悩んでしまいそうですが、
梅雨の時期、家に籠ってじっくり読書の時間を過ごすのも良いのではないでしょうか。
こちらもおすすめ!
◆大きな音が聞こえるか(坂木司)
大長編といえば、こちらもおすすめ。これはなんと700ページ超え!(文庫版)
夢に向かって行動する高校生・泳の成長物語です。
趣味がサーフィンの泳が、「終わらない波・ポロロッカ」に乗るためにアマゾンを目指す!その数年間を描いた青春小説。
◆カフネ(阿部暁子)
家族以外の他人とでも支え合って生きていける、というメッセージが込められているのが、このお話。
溺愛していた弟を亡くした薫子。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。薫子とせつな、二人の交流を描いた物語。
◆この世にたやすい仕事はない(津村記久子)
津村さんの文章が好きな方は、こちらもおすすめ。
『水車小屋のネネ』とだいぶテイストは違いますが、面白い仕事内容に惹きこまれます。
ちなみに、こちらも300ページ超え、なかなか読み応えのある本です。