(2024/8/8 チェックリスト更新:「いつか月夜」追加)
寺地はるなさんの書く小説の魅力は、一言で表すと心理描写の細やかさ!
日頃感じる「ん?」という違和感や、「なんだかな~」というもやもやした気持ちを拾い上げて、言語化してくれるので、
「実は私のことを書いているのでは?!」と感じる読者も多いのではないでしょうか。
寺地さんはとても多作な方で、毎年2~3冊のペースで新作を出されています。
そんな中でも、今回は特に私がおすすめしたい7作品を紹介します!
一番最後に、全作品の一覧チェックリストもありますので、
ぜひご活用ください!
- 寺地はるなさんについて
- 今日のハチミツ、あしたの私 (2017)
- 大人は泣かないと思っていた (2018)
- やわらかい砂のうえ (2020)
- ほたるいしマジカルランド (2021)
- ガラスの海を渡る舟 (2021)
- カレーの時間 (2022)
- わたしたちに翼はいらない (2023)
- 全作品一覧チェックリスト
- まとめ
寺地はるなさんについて
32歳で結婚し、35歳で会社員と主婦業の傍ら、小説を書き始め、
2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。
巧みな心理描写で、心の内の声なき声を掬い(すくい)出すお話が多数。
登場人物同士のユーモアのあるやりとりも魅力のひとつです。
サインの横に、著者自身が描くゆるかわウサギも可愛い!
おすすめ小説7選
(作品のかっこは、最初の単行本の出版年です)
新天地でがんばる人におすすめ
今日のハチミツ、あしたの私 (2017)
あらすじ
結婚のため、恋人の故郷である朝埜市に移り住んだ碧。
ところが結婚話は難航、そのなりゆきから、かつて養蜂がさかんだったこの町で、蜂蜜園の手伝いを始めることに。
そこで蜂蜜の不思議や蜜蜂の生態の奥深さを知った彼女は、十五年前に自分の人生を助けてくれた不思議なできごとを思い出す…。
頼りない恋人の安西、養蜂家の黒江とその娘の朝花、安西の兄夫婦、
スナックのママ・あざみさん。
さまざまな人と出会い、懸命に生きる姿を描き出す長編。
おすすめポイント
主人公・碧の第一印象は、内気で自信のない女性。
でも、実は強いんです。
初めての土地に初めての仕事、慣れないことばかりの毎日だけれど、
そんな中で出会う人たちを味方にしていく碧のたくましさが光ります。
「自分の居場所は自分でつくっていくもの」というメッセージが、胸を打ちます。
新しい場所に行かなきゃいけない、新しいことを始めるけど不安…
そんな人の背中をそっと押してくれるお話です。
人の温かさに触れたい人におすすめ
大人は泣かないと思っていた (2018)
あらすじ
時田翼32歳、農協勤務。九州の田舎町で、大酒呑みの父と二人で暮らしている。
趣味は休日の菓子作りだが、父は「男のくせに」といつも不機嫌。
そんな翼の日常が、真夜中の庭に現れた"ゆず泥棒"との出会いで動き出し……(「大人は泣かないと思っていた」)。
翼と、その周りの人々の視点から紡がれる全7編の連作短編集。
おすすめポイント
翼とその周りの人たちの関係がとても良い。
全員が完璧な善人というわけではなく、一癖二癖ある人たちだけれど、
どこか憎めない人たちばかり。
特に好きなのは、父視点で語られる『おれは外套を脱げない』。
ガチガチの「男は上、女は下」という価値観で家庭を築いてきたけれど、妻が態度を急変。
実は家族から仲間外れにされている自分に気付きます。
そんな父が、現代の価値観に戸惑いながらも、
大切な人と一緒に第二の人生を歩もうとする姿に、人生捨てたもんじゃないなと勇気をもらえます。
自分に自信をもちたい人におすすめ
やわらかい砂のうえ (2020)
あらすじ
大阪の税理士事務所で働く万智子24歳。
顧客のウェディングドレスサロンのオーナー了さんに頼まれ、
週末だけお手伝いのアルバイトをすることに。
そんなある日、サロンに早田さんという男性が現れ、
人生はじめての「恋」のときめきを感じる万智子だったが…。
万智子の成長を描く長編。
おすすめポイント
自分に自信がなくて控えめになってしまう万智子に共感する人には、ぜひ読んでほしい!
自信がない故の生きづらさを軽くするヒントや言葉が、この本の中に詰まっています。
自分が強くなるための「おまじない」の言葉が、きっと見つかるはず。
ちなみに私にとっての「おまじない」は、こちらの言葉です。
「自分に自信をもつ」ということは「わたしは美しい」と思えるという意味ではなかったと気づく。
わたしがわたしのまま世界を対峙する力を持つ、ということなのだ。不躾な他人の視線を、毅然とはね返せるということ。
寺地はるな 『やわらかい砂のうえ』祥伝社, 2020, 213ページ
お仕事小説を読みたい人におすすめ
ほたるいしマジカルランド (2021)
あらすじ
大阪にある老舗遊園地「ほたるいしマジカルランド」。
名物の女社長を筆頭に、アトラクションやインフォメーションの担当者、清掃スタッフ、花や植物の管理人など、たくさんの従業員が働いている。お客様に笑顔になってもらうために、みんな毎日励んでいるが、胸の内には悩みを抱えていて…。
マジカルランドで働く従業員たちの視点で描かれる連作短編。
おすすめポイント
この本には、自分に自信がなくて、過小評価している人たちがたくさん出てきます。
でも章が変わって別の人の視点でその人を見ると、周りの人はその人の頑張りをちゃんと見てる。「いいな」と思っている。
読んでいるこちらまで励まされるお話ばかりです。
家族、友だち、恋人、自分のことをちゃんと見てくれている人たちのために、
もっと自分を褒めてあげたいなと思わせてくれます。
また、ほたるいしマジカルランドは、別作品でもちらりと登場することがあるので、
そんな懐かしい再会に喜べるのもおすすめポイント。
そういう点でも、寺地作品が好きな方にはぜひ読んでほしい本です。
他人と比べて焦ってしまう人におすすめ
ガラスの海を渡る舟 (2021)
あらすじ
大阪でガラス工房を営む兄妹。
普通のことがうまくできないけど、普通の人と違う感性を持つ兄・道と、
何でもそつなくこなせるけれど、特別な才能に憧れる妹・羽衣子(ういこ)。
正反対の二人が衝突しながらも、共に過ごす10年間を描いた長編。
おすすめポイント
才能のある兄に追いつきたくて焦って、無理をして倒れてしまう羽衣子にかけられた言葉が、自分の中にも染みてきます。
焦らず、目の前のことをしっかりやっていけば、それが道になる。
そんな勇気をもらえるお話です。
お互いに相容れない兄妹が、だんだん歩み寄っていく10年間の変化も見どころです。
世代間ギャップに戸惑っている人におすすめ
カレーの時間 (2022)
あらすじ
レトルトカレーを日本で何番目かに発売した会社の営業マンだった83歳の祖父と、
その三女の息子で、祖父の同居人に指名された25歳の潔癖男子・桐矢。
価値観の違うふたりだけど、カレーを一緒に食べる時だけ心が通い合う。
祖父と孫、そしてその家族について、カレーを軸に描く長編物語。
おすすめポイント
終戦直後の時代を生き抜いてきた祖父と、現代の価値観を持つ孫の桐矢、
二人の価値観が全然違っていて、一緒にいても交わるところが全くない。
でも、率直な言葉のぶつけ合いがコミカルな場面もあり、ストレスなく、むしろ面白く読めます。
桐矢視点から見る祖父は、「男は強く、女は弱い」という考えを不躾な言葉で押し付けてくる人で、腹が立ってきます。
でも、祖父の視点の章では、不器用ながら愛情もあるのだと分かってきます。
どちらの立場で物語を見るかによって、出来事の印象は変わる。
それを身をもって知ることができるお話です。
「ブラック寺地」を読みたい人におすすめ
わたしたちに翼はいらない (2023)
あらすじ
学生時代のスクールカーストで上位にいた莉子と大樹。下位にいた朱音と園田。
大樹にいじめられていた園田は、大人になってふと「死にたい」と思った後に、
「どうせ死ぬなら、あいつを殺してから」と考える。
一方、大樹と結婚した莉子は、自分を見下げる大樹と離れたいけれど、自分から離婚を切り出して、誰かに責められるのが嫌だ。ならば大樹が死ねばいい、と考える。
清々しいまでに吹っ切れた二人の決意は、結実するのか…?
おすすめポイント
表に出せない感情を正確に言語化できる寺地さんが、人間の深淵の感情を書くと
こんなに不穏でぞわぞわする話になるのか…と、その実力を改めて感じたのがこの本です。
「未来への爽やかな希望」がこれまでの寺地作品の持ち味でしたが、
このお話は「地を這ってでも生き抜いていくのだ」という心の底からの意地を感じます。
それでも読み終えた後に残るのは、「自分のままで生きていけるのだ」という強い気持ち。
ブラック寺地の真骨頂とも言える本作、ぜひ多くの人に読んでほしいです。
全作品一覧チェックリスト
全作品制覇を目指している方は、こちらもどうぞ。(ダウンロードしてご利用ください)
まとめ
まだまだおすすめしたい作品はたっくさんあるのですが、
長くなってしまうので、今回はこの辺で…。
寺地さんの書く物語は、自分に自信が持てない人、他人と比べてしまう人に
エールを送ってくれます。
不器用でも、美しくなくても、「そのままの自分」で生きていけばいいんだよ、
というメッセージが込められていると感じます。
ひとつひとつの作品は、単体で完結するので、
順番は気にせず、その時気になった作品からぜひ手に取って読んでみてください!