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【小説】『鳥と港』 いまイチオシの作家、佐原ひかりさん

個人的にいまイチオシの作家、佐原ひかりさんの最新作『鳥と港』を紹介します!

(2024年5月29日発売)

 

刊行と同時に重版が決まったという事実が、

それだけの注目を集めていることを示していますね。

実際に私も読んでみて、「これはぜひ多くの人に読んでほしい!」と思ったので、今回紹介します。

こんな人におすすめ
  • 「会社、燃えてないかな」と思うくらいには、会社に行きたくない方
  • 「手紙」「文通」「便箋」というキーワードにワクワクする方
  • 現状にモヤモヤして、何かを変えたいを思っている方

あらすじ

上司のご機嫌伺い、やる意味を感じない仕事、頻繁な飲み会・・・

それらの不満が積み重なって、急に会社にいけなくなってしまったみなと。

退職後も就活せずに不安と焦りの中で生活していた。

ある日、散歩中の公園の茂みの中に、古い郵便ポストを見つけた。

ふと中を覗いてみると、中には宛名なしの一通の封筒が。差出人は「あすかさん」。

何気なくその手紙に返事を書くと、あすかさんから返信が来る。

往復書簡を繰り返すうちに、やがて二人で「文通屋さん」をやろうということに。

「会社にいくこと」や「学校にいくこと」が「絶対」ではない。

働き方が多様化している現代にぴったりのお仕事小説。

おすすめポイント

みなとと飛鳥の関係性が素敵

自分の「好き」や「得意」を活かした新しいお仕事は、読んでいる側もワクワクします。

でも、現実は楽しいことばかりではなくて…

理想とのギャップや想定外の問題に、四苦八苦しながらも、

お互いに思いやって、手を取り合って進んでいくみなとと飛鳥の姿に励まされます。

社会の厳しさの中にも、人の優しさを感じられるお話でした。

自分の背中を押してくれる

「私も何かを始めたい!」と思わせてくれる。

何を隠そう、私がこのブログを始めたのも、みなとと飛鳥たちのおかげです。

ずっとやりたかったことだったけど、色々な理由をつけてやらずにいた。

そんな私の背中を後押ししてくれた、大事な本です。

「手紙を書くことっていいな」と思わせてくれる

作中のこの言葉に、ぎゅんと胸をつかまれました。

手紙を書く。ことばにして。書きとめて、記憶や感情を相手に預けておく。

そうすれば、こうやって、ふとした何気ない瞬間に手元に戻ってくることもある。

佐原ひかり 『鳥と港』 小学館, 2024, 290ページ

飛鳥は、自分が手紙に書いていたことを、自身はすっかり忘れていた。

でも、みなとの記憶には残っていた。

会話で交わした言葉も、人の記憶に残ることはもちろんある。

でも、それが文字として相手の手元に残っていることが

より「気持ちを預けた」実感を感じる。

「あぁ、手紙ってあったかいなぁ」とじーんときたシーンでした。

まとめ

佐原ひかりさんの書くお話は、世間の常識を「それってほんとに大事なの?」と

やわらかく教えてくれます。

それは、決して読者を刺すような痛さを伴うものではありません。

その逆で、日々の生活に摩耗する心に、潤いをくれるような優しい言葉。

『鳥と港』も例外ではなく、読み終わったあとはスッキリと清々しい気持ちになれます。

未読の方はぜひ!

佐原ひかりさんの著作一覧

◆ブラザーズ・ブラジャー

父の再婚で新しい母とその連れ子・晴彦と暮らすことになった高1のちぐさ。

あるひ、晴彦がブラジャーを着けていることに遭遇する。

 

◆ペーパー・リリイ

野中杏、高校2年生。詐欺師のこども。

夏休み、詐欺の被害にあった女性キヨエが家にやってきた。

杏はキヨエに何かを返してあげたいと思い、一週間の二人旅に出る。

 

◆人間みたいに生きている

食べることってそんなに素敵なこと?

食べること自体に嫌悪感を抱く女子高生が主人公。

「自分の普通」は「相手の普通」ではないと突きつけられるお話。