ほっこりしたい気分の時に読む本と言えば、私は森沢明夫さんの本が定番です。
この『津軽百年食堂』は「ほっこり」を通り越して、「じんわり」と心に沁みるものがありました。
今回は『津軽百年食堂』のあらすじとおすすめポイントをご紹介します。
- 家族の歴史の物語を読みたい方
- 実家を出て自立しようとがんばっている方
- もうすぐ父になる方、なりたてほやほやの方
あらすじ
青森・弘前で明治時代から代々続いている「大森食堂」。代表メニューは津軽蕎麦。
三代目主人の哲夫には、長女・桃子と長男・陽一という二人の子どもがいる。
二人とも既に自立しており、陽一は弘前を離れて東京で生活している。
三代目・哲夫のプロローグから始まり、第一章は初代・賢治と、現代の陽一の物語が交互に語られていく。
第二章~第四章は、現代に生きる陽一や、陽一と同郷の七海の視点で物語が展開していく。
全五章で人間の繋がりを描く長編。
おすすめポイント
先祖代々の家族の厚みを感じられる
第一章は、明治時代に大森食堂を創業した初代・賢治と、現代(平成)に生きる陽一の物語が、交互に語られます。
内気な性格で苦労している賢治と陽一。
仕事に勤しむ賢治と、東京で一人奮闘する陽一。
賢治と妻・トヨの出会い、陽一と七海の出会い。
それらがリンクするように同時進行で描かれるので、血のつながりや運命を感じます。
そして、最後まで読み切った後には、これまで語られてきた大森家の物語の裏に、
奇跡のような真実があったことを知らされます。
若者二人の成長物語を読んで、元気をもらえる
本書の大部分は、陽一と七海の視点で語られます。
二人は実家の家業と自分のやりたい仕事との折り合いや、お互いに感じている想いの伝え方など、色々な悩みを抱えながら、郷里と遠く離れた東京で、奮闘しています。
実家を出て、ひとりで自立しようとがんばっている方には、共感ポイントがたくさんあるのではないでしょうか。
二人の健気にがんばる姿に、読者も元気ややる気をもらえます。
「日常にある幸せ」に気付かされる
最後まで読み切った後には、プロローグで語られた哲夫の言葉が真に迫ってきます。
何もない平凡な一日を淡々と過ごせることが、実はどれほど幸福でありがたいことであるか―。
「平凡な日々が、実は幸せ」というのは月並みな言葉ですが、
この物語を読み終えた時に改めて読み返すと、しみじみと心に沁み込んできます。
自分がここに生きているということは、父母・祖父母・曾祖父母、さらにその前の世代が、ずっと命のバトンを繋いできてくれた証であるということ。
そんな当たり前のことが奇跡であるということに気付き、哲夫の言葉をじっくりと噛み締めたくなります。
自分の家族に想いを馳せるきっかけになる物語です。
まとめ
世代を超えた家族の物語、と書きましたが、
作中に陽一や七海と、それぞれの親のやりとりが描かれる場面はほんのわずか。
メインで描かれているのは陽一や七海の東京での奮闘エピソードです。
彼らの周りには、二人を応援したり発破をかける魅力的な友人たちがいます。
そんな友人たちとのやりとりが、不思議と家族の繋がりを浮き彫りにするところが、
森沢さんのすごいところ。
「家族」にフォーカスした場面をあえて描かないことで、
読者に想像させる巧みな構成に「してやられた!」となっちゃいます。
みなさんもぜひ「そういうことか~!」という感動を体験してください!