長寿の国、日本。
2023年時点での平均寿命が、男性は81歳、女性は87歳だそうです。
長い人生、健康な目でできるだけ長く過ごしたいですよね。
今回は、そんな「目」に関わるお仕事をする青年の物語をご紹介します。
- 目の健康に興味のある方
- 「視能訓練士」という仕事を知らない方
- 自分に自信が持てない方
あらすじ
視能訓練士の野宮恭一は、北見眼科医院をいう、町の小さな眼科で着実に成長していた。
斜視の四歳の少女、ロービジョンの小学生、糖尿病網膜症の漫画家、スマホ内斜視など、さまざまな症状を持つ患者たちに向き合っていく。
『7.5グラムの奇跡』の続編。
おすすめポイント
目の病気との向き合い方を知る
あまり直視したくはないけれど、人間である以上、
目の病気は誰にでも発生しうるものです。
本作では、目の病気の現実を突きつけられて、ショックを受ける患者たちの姿が描かれています。
幼い娘が斜視であり、世界を立体的に見ることができていないことを知った母親。
仕事に命を懸けているからこそ、自身の不調に目を背けてしまう漫画家。
退職後、写真が唯一の楽しみだと生きてきたのに、
動脈閉塞に襲われて、目的の一枚を撮れなかった男性。
一方で、視界が狭い先天症の病気を持っている小学1年生の男の子は、
その限られた世界の中で、逞しく生きています。
「自分の目がおかしい」という事実を告げられたとき、
自分ならどんな風に思うだろう。ちゃんと向きあっていけるだろうか。
そんな恐怖に、野宮くん含む先生や看護師たちの言葉が、温かく染み込んできます。
決して「目の病気、怖い」だけでは終わらせない。
むしろ「ちゃんと向き合っていくんだ」という勇気が持てるお話です。
野宮くんのひたむきさに勇気をもらえる
本作の主人公、野宮くんは、特別な能力や才能があるわけではありません。
むしろ、病院の高価な機器を不注意で壊してしまうほどの不器用。
そんな不器用な野宮くんですが、さまざまな患者さんに真面目に向きあい、
毎日検査の練習を重ねることで、視能訓練士として成長していきます。
そのひたむきな姿に、仕事や家事で自分が思うような成果が出せない人は、
きっと勇気をもらえるはず。
職場の先輩たちの温かさに救われる
不器用な野宮くん。
どうしたって、職場の先輩たちに叱られたり注意されたりする場面が多くなります。
けれど、先輩たちはただ「できない」部分だけを見ているのではありません。
ちゃんと彼の「できている」部分も見て、評価してくれている。
そんな場面を1つ、ご紹介します。
野宮くんの妹・希美が、北見眼科で彼の働く姿を見学した後、
北見先生が野宮くんについて話すシーンです。
「本人はどう思っているか知らないけど、こんなに早く検査を覚えていく人はなかなかいないはずです。私も彼には熱意を感じます」
「熱意ですか?お兄ちゃんにそんなものあったのかな。なんだか当たり前のことをしているようにしか見えなかったですけど…」
「何にでも対応できる当たり前は、数限りないたくさんの当たり前を経験した後にやっと身に付くんですよ」
希美はしばらく黙った後、
「勉強になります」と殊勝に答えて見せた。先生は彼女の表情を見て笑っていた。
砥上裕將 『11ミリのふたつ星』 講談社, 2024, 326ページ
希美の中でも、「お兄ちゃん=不器用」というイメージがあり、
本当にちゃんと働けてるのかな?と心配していたところでの、北見先生の高い評価。
そして何より、普段の努力している姿も見てくれていたんだという安心感。
こんな風に、職場の人に見守られていると安心して働けるし、
自分もそんな上司や先輩になりたいと思いますね。
『線は、僕を描く』とのリンクあり
本作の、とある登場人物が、
同じ著者の他作品『線は、僕を描く』の主人公・青山くんと関係の深い人物なのです!
両シリーズとも、ストーリー本筋への直接的な関わりはないですが、
『線は、僕を描く』『一線の湖』を読んだことのある方は、
ぜひこの視能訓練士シリーズも読んでいただきたい!
(特に『一線の湖』に深いつながりあり)
もちろん、視能訓練士シリーズ→『線は、僕を描く』シリーズの順番でも大丈夫です!
まとめ
視能訓練士という仕事を通して、人の営みの尊さが浮かび上がってくる。
そんなあったかい読後感が得られる一冊です。
ちなみに私は、前作の『7.5グラムの奇跡』の続編と知らずに、
『11ミリのふたつ星』を先に読んでしまいましたが、それでも十分に楽しめたし、
感動しました。
そのくらい、物語として完成しているお話です。
気になる方は、ぜひ手にとってみてください!