本好き、コーヒー好き、あつまれ~!
この本を読めば、ますます本とコーヒーが好きになること、まちがいなし!
そして4月からの新生活に気合を入れたい人、
気合を入れたいけれど、なんだかちょっと疲れてしまった人も必見です。
コーヒーを片手に、この本といっしょに、人生を見つめ直してみませんか。
- 本とコーヒーが好きな方
- 人生の岐路に立っている方
- 無気力症候群になっている方
あらすじ
ソウル市内の住宅街・ヒュナム洞にできた「ヒュナム洞書店」。
カフェスペースを併設したヒュナム洞書店には、いろいろな人が集まってくる。
女店長・ヨンジュ、バリスタとして雇われたアルバイトのミンジュン、
そして事情を抱えた常連客たち。
新米店主と店に集う人々の、本とコーヒーと共に過ごすささやかな毎日を描く。
おすすめポイント
本好き、コーヒー好きに刺さる言葉がもりだくさん
「カフェを併設している書店」という舞台設定からイメージするとおり、
本とコーヒーを愛する人たちが登場します。
彼らが語る言葉は、本やコーヒーが好きな人の心にぐっとくるセリフが多いのです。
特に本好きな私に刺さった文章はこちら。
少し長いけれど、引用します。
もうこれ以上くじけたくなくて、「去ってきた人物」の登場する小説に没頭した。まるで、世界じゅうのそういう小説を一つ残らず集めようとしているかのように読みあさった。
ヨンジュの身体のどこかには、去ってきた人たちが集まって暮らす場所がある。そこには、彼らに関するさまざまな情報があふれている。
彼らが去ってきた理由、そのときの心情、そのとき必要だった勇気、去ってからの生活、時間が経ったあとの感情の変化、彼らの幸せと不幸せと喜びと悲しみ。
ヨンジュは、その場所に行きたいときはいつでも訪ねていき、彼らのそばに身を横たえた。そして彼らの話を聞いた。彼らは、みずからの人生を通して彼女を慰めてくれた。
ファン・ボルム 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』 集英社, 2023, 29ページ
今まで自分が読んできた本の登場人物たちが、今も自分の身体のどこかにいる。
そう考えるだけで、何だかとても心強い。
自分だけの人生では知り得ないほどの情報を、本は私たち読者に提供してくれる。
そのことのすごさを、改めて感じた文章でした。
コーヒー好きな人にとっては、
コーヒーと真摯に向き合うミンジュンの姿勢や、
コーヒー業者・ジミとの会話に、
「うん、うん」と頷きながら読めると思います。
本もコーヒーも、人の生き方にとっても深く関わってくるんだなぁと感じます。
みんなが心地よい距離感にいる
登場人物たちの距離感が絶妙で、読んでいる側も不思議と心地よくなるのです。
これこそが本書の大きな魅力だと思います。
同じ空間にいる人が、ちょっと元気がなさそうなときは、
心配して声をかけたり、何も言わずに見守ったり。
だけど、個人的な事情は、本人が話し出すまでは踏み込まない。
自分の仕事をしっかりとこなし、切磋琢磨している様子を見ては、
「自分もがんばろう」と力が湧く。
人生に疲れてしまった人がぼーっと座っているのを見て、咎める人はいない。
でもちょっと気にして、視界の端には留めておく。
そんな程よい距離感を、登場人物たちみんなが保っているから、
ヒュナム洞書店は、読者にとっても居心地の良い空間になっているんだなと思います。
高学歴・エリート志向の競争社会、疲れるよね
ヒュナム洞書店には、人生にちょっと疲れてしまった人たちもやってきます。
恥ずかしながら、韓国事情についてはこの本を読んで初めて知ったのですが、
受験戦争に勝ち抜いて、高偏差値の高校・大学に入り、
就職活動も力を入れて、大企業のエリート社員になるのが、人生の勝ち組。
そこからドロップアウトしてしまったら、人生の敗北者。
そんなレッテルが貼られてしまう超競争社会。
就職活動に「失敗」したミンジュンや、
「生きるのが楽しくない」と無気力症候群になってしまった高校生のミンチョル。
日本にも、同じような悩みを持っている人は多いだろうなと思います。
彼らがどんなふうに、自分の人生と向き合い、
未来のことを考えられるようになっていくか。
ぜひ、読んで確かめてみてください。
子育て中の母親の気持ちに寄り添うエピソード
子育て中の母である私は、常連客・ミンチョルオンマの動向が気になってしまいました。
「○○オンマ」とは、韓国語で「○○のママ」という意味。
つまり、ミンチョルオンマ=ミンチョルの母親なのですが、
本書の中で彼女の本名が明らかになるのは、後半になってから。
それまで始終、彼女は「ミンチョルオンマ」として行動します。
無気力症候群になってしまった息子を心配し、
息子のやる気を引き出そうとヒュナム洞書店に連れてきたり、
息子との関係に悩んだり。
だけどある出来事をきっかけに、「ミンチョルオンマ」ではなく、
「本名で呼んでほしい」と提案するようになります。
息子を心配する母親としての役割だけでなく、
自分自身を人生の主役に置くことを決めた彼女の「脱皮」が、
同じ母親として、女性として、とても心強く印象に残りました。
まとめ
全体の雰囲気はあったかいけど、人生についてしっかり考えていく。
単なるほのぼの系小説ではないのが、このお話の魅力。
人生に迷わない人なんていない。
でも迷っているときこそ、自分とじっくり向き合うチャンス。
そんなことを、本書は教えてくれます。
ヒュナム洞書店は人生の休憩所。
そう言いきってもよいくらい、心が浄化される一冊。
ぜひ、ご一読ください♪
こちらもおすすめ!
◆あの日、小林書店で。(川上徹也)
「ヒュナム洞書店って素敵!」と思った方、ぜひこの本も読んでいただきたい!
2024年に閉店した人気書店をモデルに書かれた小説。
書店を通して、仕事や人生で大切なことを見つめ直していく。
働く人全員におすすめしたい一冊です。
◆キッチン常夜灯(長月天音)
「人生の休憩所」はヒュナム洞書店だけではありませんよ~。
「キッチン常夜灯」もオススメです!
仕事に疲れた主人公が訪れたのは、
美味しい料理と、さりげなく細やかな心遣いを提供してくれる
ビストロ「キッチン常夜灯」。
読み終わった頃には、「よし、もう少しがんばろう!」と元気をもらえる物語です。